お侍様 小劇場

    “蜜会の宿”
           …ってもいいですか?続編 A (お侍 番外編 60)

                *微妙に女性向の描写中心のお話です。
                 ぬるい代物ではありますが、苦手な方は自己判断でご遠慮願います。
 

のんびりとつかった風呂から上がり、
髪を乾かしながら、取り留めのないお喋りをどれほどか続け。
その合間には、

 「……う。///////」
 「んん?」

不意打ちながら、
ついばむような口づけも幾つか交わして。
(おいおいvv)
それからそれから、
海の幸を中心にした結構な晩餐をいただいて。
食やすめには、
明かりを落とした部屋から望む、
静かな、されど絶景が待ち受けており。

 「あれは?」
 「さて、今時分に漁に出るというと。」

沖に灯るはイカ釣り船の明かりだろうか。
大きな窓から広々望む、海の表の暗さと裏腹、
降るような真砂、星々を灯した夜空という天蓋を、
わあと感嘆しつつ見上げる女房殿の、
無邪気な横顔眺めての晩酌を、さて どれほど過ごしたものか。
正座が苦ではないらしい七郎次が、
それでもお酌をとの立ち居や身動きの端々で。
ついつい乱した浴衣の裾から、
白いすねをば零した姿が、
さらと畳を擦った音と共に、
薄闇の中、何ともあでやかに浮かび上がって。

 「……。」

色香を零したつもりなぞ、ないことくらいは判っている。
それでも、
壮年殿の身のうちへ、何かを起こさせるには十分な切っ掛け。
おぼろな明かるみに胴の丸みを光らせていた、
白磁の銚子を支える白い手、手首のところで捕まえれば、

 「……ぁ。」

抗いのためというよりも、銚子を落としかけてのそれ。
若しくは、不意に触れた御主の手の熱が、
その唐突な荒々しさから、
七郎次の側の身のうちでも、何かをざわりと慄かせたのかも。
そんなこんなで咄嗟に上がった掠れた声は、
意外なほど高く、頼りないほどに かぼそかったものだから。

  勘兵衛の自制がゆるりと解けた

ちょっとした戯れで済ませられたろう ちょっかいの筈が、
ぐいと手を引き、こちらの膝へ、
相手の総身を倒れ込まさせる格好で引き寄せている。
浴衣の衿の合わせ目というものは、
斜めに切れ込む直線が、胸元を下へと向かって交差しており。
それが少しでも乱され浮き上がれば、
縁が真下の肌へと影を落としての、妙に嫣然とした景色に見えて。

 「あ。」

七郎次の側にしてみれば、
引っ張られたからとは言え、
御主の膝へと倒れかかってしまったは自らの不調法。
申し訳ありませぬと、慌てもってその身を起こしかかった動作が、
勘兵衛からは逃れようとしたようにでも映ったか。
謝意を込めての見上げて来た眸を、
すうとたわめた目許で受け止めて。

 「…っ、」

それだけでも はっとした女房殿の、
金絲を束ねたうなじへ、片やの手をするりと添えると。
だが、性急に食いつきはせずの、
目顔で相手へ、何をか問うて見せる鷹揚さ。
それへと、

 「……狡うございます。////////」

少し陰って男ぶりの増した、
鋭角な目許を味な気色にたわませて。
深色の眼差しが何かしらの意を含ませての、
じいと見据えて来やるのへ。
それでなくとも、肌の慄き去らぬまま、
どくどくとざわめく血脈の鼓動を抱えた身。
どうして否やと返せましょうか。
その上、はしたない求めを、こちらから言わせますかとの恨めしげ。
目許を朱に染めての健気にも、青い眸 眇めて睨み返せば、

 「…うむ。」

嗜虐の気はなしとの苦笑を零した勘兵衛。
眼差しから妖の気色が見る見る退いてゆき。
それを追いかけ塗り替えるかのよに、
骨太な男の色香が匂い立つ、それは太々しい笑みを、
その口許へと浮かべて見せるものだから。

 「あ…。////////」

鮮やかな変化へ翻弄されたか、
声もないまま、七郎次が見ほれてしまった隙をつき。
端正な形がいつ見ても惚れ惚れとする唇へ、
自分のそれを押し付けて。
息をも奪う勢いで、深い深い口づけを授ければ。
しなやかなその身が、やがては萎えての凭れかかって来。
この手中へと沈み込むのが、得も言われず愛おしい。
とろりと浮いた目許を見下ろし、
慎重に受け止めた美しい肢体。
何にも奪い去られぬようにとするかのように、
勘兵衛はしっかと抱きすくめてやっていた。




     ◇



汗をさっぱりと流して落とし、
夜風を通して冷まさせていた七郎次の白い肌は、
見目から既になめらかで瑞々しい感があり。
襖を隔てた隣りの間へと立ってゆき、
延べられてあった夜具へとその身を横たえてやって。
気に入りの金の髪、ぱさりと解いて敷布へ広げ。
踏みつけたりはせぬように、その上で逃さぬような格好で。
膝つき手をつき、そおと乗り上げ、
相手の肢体を蒲団へと組み敷けば。

 「…勘兵衛様。///////」

しばしそのままでいた御主へと、彼の側から声がかかる。
以前なら、最後の最後、取り乱しかかるすんでまで、
彼の方からは、決して触れては来なかったはずなのに。
しなやかな腕が持ち上がり、
脇を這っての背中へ、かいがら骨の辺りへまで。
すがりつくよに伸ばされるようになったのも、
思えば“あれ”からの大きな変化。
どうにでも好きにしてくださいというのではなくて、
彼からの“お慕いしております”という、
真っ直ぐな気持ちの、これも現れなようで。

 「……。/////////」

さすがに含羞みだけは変わらぬこととて、
頬が染まり、肌も熱をおびてゆくらしく。
暗がりへ仄かに甘く香るのは、
髪をまとめるのに使っているらしき、椿油の匂いであったが。
勘兵衛にはそれこそが、彼の匂いに他ならず。
甘ったるくもなく、すんと冴えての鋭くもなく。
やわらかで嫋やかで、少しほど…秘めやかな。
自分しか知らぬ閨房での彼という個性には、
仄かな甘さが妙に似合ってなまめかしい。
眼下へ見下ろしたは、少し乱れた浴衣の合わせ。
その狭間へと手のひらを伏せれば、
そこから伝わる熱い感触にか、
ほうという細い吐息を零す七郎次であり。
その手へと張った浅黒い肌は、鞣し革のように強くなめらかで。
白い肌の上へと重ね置くだけでも、
その拮抗が清かな存在を犯すよな、淫らがましき錯覚を招く。
手首のところでつっかえる衿を、そのまま押しのけるようにして、
胸元を左右へ大きく割り開けば、
あらわになるのは白雪の肌。
穢れを寄せぬ禁忌の色とも見えるそれへと、
そんな肌のすみずみまでもを味わおうとしてか。
そおと寄せられ這ってゆく唇の、
やわらかいような熱いような感触が、
それをほどこされる七郎次には、
不思議と何ともなまめかしいものに思えてならずで。

 「ん…、ゃ、あ…。////////」

帯も解いての、浴衣を開きて剥ぎ取りながら、
絖絹のような肌のところどこで留まって、軽く残される接吻は。
品のいい口許から、小ぶりな顎、なめらかな頤へとすべり下り。
触れやすいようにか心持ち反らされた首条を経て、
衿の大きく割られた胸元へと、順を追って降りてゆき。
時折 歯列の先が掠める感触が、
さながら野獣に咬まれる感触を生々しくも想起させ。
また、きつく吸われての ちりという微かな痛さが、
肉の奥深くへ秘されていた熱をじわりと呼び招き。
柔らかな肌はそうやって、
触れられたところから、尚の熱を滲ませ、
ますますと熱くなってゆくばかり。

 「んっ。/////」

胸元の粒実は、幾夜もかけての馴らされていて。
昼間日頃は何でもないのに、
主との供寝、閨に身を沈めた宵にだけは、
掠めただけでもじんと震える、妖しい感度を増しており。
勘兵衛の堅い指の腹で、ぐりと捏ねられればそれだけで、
ひくりと背中が撥ねるほど、熱い痺れが総身を駆ける。
しきりに零れる吐息の熱が、その唇を赤々と染め濡らし、
知らぬ間にとめどない蜜声を上げ続けていた喉は、
どうにも乾いてやまぬのに。
目許は潤んで、視界が歪む。
枕元に置かれた和紙の囲いに覆われた灯火が、
淡くぼやけて、だが。

 「…シチ。」

七郎次、と。
甘く掠れた御主の声が、
耳元で低く響けば それだけで。
どこにおわすかと視線が泳ぎ、指先が震える。
深く抱き合い、これ以上はなく触れ合っているのを思い出せぬほど。

 もっときつく抱いてくださいと、
 もっと触れてくださいませと。

もっともっとと請い願う“欲”が、どくどくとあふれる。

  独り占めしてほしい、独り占めしたい
  わたしを あなたが、 あなたを わたしが

体の奥でのつながりが、じわりじわりと深まりを進め。
その感触に、しなやかな背中がたまらず反り返る。
意識を焼くほどの強い刺激が総身を蹂躙し、
下腹に育った熱は解放を求めて昇り詰め、
(おこ)りのような熱い痺れが沸き起こっては、
手足の先へと走り抜けてく。

 「あ、か…、ぁ…。」

突き入れられた楔
(くさび)が、不意に堅さを増し、
ぐいと押し込まれて、目の前が白く弾ける。
しがみついた腕へ、勘兵衛の豊かな髪がまといつき、
汗の香が精悍にも匂い立つ中にくるまれて。
やがては身体の内と外との隔てもなくなり、
灼熱に鎔けてゆく意識の中、
勘兵衛との肌での境目までもが、
曖昧に綯い交ぜとなってゆくような気さえして。

 「…っ、あっ、あ、あーーーっ、」

息が乱れたその拍子、咬みしめかかった奥歯が鳴った。
押さえ損ねの泣きたいような細い声、
尾を引くように放たれて。
大きく反り返ったその身を、腰のところで捕まえていた、
手の、指の、力強かった感触が、
七郎次のもの覚えの中、最後の記憶であったような……。






     ◇◇◇



 “えっと……。/////////”

しごく穏やかな目覚めであったはずが、
いろいろいろと思い出されるにつれ。
火照るうなじや、背中やすねの、
肌目がじりじりじんわりと。
ほのかな汗の湿りをまとい始めてしまったほどで。
そうともなれば、
寝汗の温み以上の熱が、昨夜の薫香をも掻き起こし。

 “…朝っぱらから かぐわしいことよ。”

そんな甘さを間近にしては、
寝たふりしていた誰か様とて、その胸中に苦笑が込み上げてたまらない。

 『シチ。』
 『はい。』

声をかけたそのまま、姿や何やへついつい見惚れておれば。
以前であれば、こちらの沈黙に付き合い続けた彼だったものが、

 『…勘兵衛様?///////』

凝視に居たたまれなくなるものか、
真っ赤になりつつ、いかがしましたか?と、
促すかのよに訊いて来るようになっており。
口に出して語ったなれば、
単なる惚気にすぎないと、呆れられるよなことだろが。
そんなささやかな変化さえ、
なおざりに出来ぬ一大事。
年端のゆかぬ青二才のように、
いちいち浮かれてしまう彼なれば。
どぎまぎしている女房の様もまた、
いつまでも眺めていたい愛らしさであるようで。


  双方ともにこの調子では、
  梅雨の終わりの淑やかな雨も、呆れて上がるやも知れませぬ。
  ともあれ、次男坊が帰ってくる時間までには、
  何とか平生へと、戻っておかなきゃねぇ? お二人様。




  〜どさくさ・どっとはらい〜 09.07.14.


  *そういえば、このようなお宿は
   既作の『
どこでもいっしょ』にも出してましたね。
   あのときの宿とは別口ですので念のため。

   “寸止め”の続き、いかがでしたでしょうか。
   あまりの蒸し暑さに、
   書き手の方のスタミナが切れた爲軆
(ていたらく)でございまして。
   梅雨の前の猛暑はまだ、カラッとしておりましたよねぇ。
   湿気じとじとの威力を思い切り味あわされております。
   夏場のいちゃこらは、どうか控えめにね?(と言っても無駄でしょか?)

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